「おやじごめんな…」。兄は目の前のゴミの山を前にそう言ってうなだれました。父が亡くなり私と兄は三十年ぶりに二人きりで実家の玄関をくぐりました。そこに広がっていたのは私たちの記憶の中にある温かい我が家ではなく、天井近くまで物が積まれ異臭を放つゴミ屋敷でした。父は母が亡くなってから一人このゴミの要塞の中で孤独に生きていたのです。悲しみに浸る間もなく私たちにはこのあまりにも重い現実を片付けるという使命が課せられました。最初は自分たちでやろうとしました。しかしゴミの量は私たちの想像をはるかに超えていました。一つ物を動かせばホコリが舞いゴキブリが走り回る。そして何よりも辛かったのはゴミの中から次々と現れる父のそして私たちの過去の思い出でした。私が小学生の頃の通知表。兄が夢中になった古い野球のグローブ。そして両親の仲睦まじい結婚記念の写真。それらを見つけるたびに私たちの手は止まってしまいました。「なぜこんな大切な物までゴミと一緒に…」。父へのやるせない思いと、もっと頻繁に顔を見せていればという後悔が私たちを責め立てました。精神的にも肉体的にも限界を感じた私たちは遺品整理を専門とする業者に助けを求めることにしました。作業当日プロのスタッフの方々は私たちの思いを丁寧に聞き取りながらゴミと遺品を見事に仕分けていきました。そして作業の最終日。全てのゴミがなくなりクリーニングされたがらんとしたリビングで私たちは業者の方が見つけ出してくれた一冊の古いアルバムを開きました。そこには私たちが忘れていた家族四人のたくさんの笑顔がありました。片付けにかかった費用は決して安くはありませんでした。しかし私たちはお金では買えない大切なものを取り戻すことができたと思っています。それは父の失われた尊厳とそして私たち兄弟の新たな絆でした。