ゴミ屋敷問題において、近隣住民にとって最も直接的で、そして耐え難い被害の一つが「悪臭」です。窓を開けることすら躊躇われるほどの不快な臭いは、どこから発生し、一体何が原因なのでしょうか。その正体を理解することは、問題の深刻さを認識し、適切な対策を講じるための第一歩となります。ゴミ屋敷の悪臭は、単一の臭いではなく、様々な原因物質が混じり合った、複合的なものです。主な発生源は、大きく分けて四つあります。第一に、そして最も強烈なのが「生ゴミの腐敗臭」です。食べ残した弁当や惣菜、野菜くず、肉や魚のトレイなどが、長期間放置されることで腐敗し、細菌が繁殖する過程で、アミン類や硫化水素といった強烈な悪臭物質を発生させます。これは、夏の暑い時期には特に深刻化し、周辺にまで広範囲に漂います。第二に、「排泄物や体液の臭い」です。トイレがゴミで塞がって使えなくなり、ペットボトルなどに排泄していたり、ペットの糞尿が放置されていたりする場合、強烈なアンモニア臭が発生します。また、孤独死などが起きた現場では、ご遺体の腐敗による、いわゆる死臭が加わり、その臭いは極めて凄惨なものとなります。第三に、「カビや湿気の臭い」です。ゴミの山は湿気を溜め込みやすく、通気性も悪いため、カビの繁殖に最適な環境です。壁や床、衣類などに発生したカビは、独特のジメジメとした、埃っぽいカビ臭を放ちます。これは、アレルギーや呼吸器疾患の原因ともなり、健康への影響も懸念されます。最後に、「害虫や害獣に由来する臭い」です。ゴキブリやネズミなどが大量に発生すると、そのフンや死骸、そして彼ら自身が持つ特有の体臭が、これまでの悪臭と混じり合い、さらに不快な臭いを増幅させます。これらの様々な臭いが混然一体となり、あの筆舌に尽くしがたいゴミ屋敷特有の悪臭を形成しているのです。