かつて外資系企業でバリバリと働いていたBさんは、結婚を機に専業主婦となりました。知性的で何事も効率的にこなす彼女でしたが、子供が生まれた頃から、徐々に生活のリズムが崩れ始めました。仕事であれば数値や目標で成果が測れますが、家事や育児は報われない努力の連続です。彼女は自分の能力が発揮できない焦燥感と、社会から取り残されたような疎外感から、次第に自分の身の回りのことに無頓着になっていきました。これがセルフネグレクトの始まりでした。部屋には食べかけの食器が放置され、洗濯物は洗われることなく山を成しました。Bさんのような高学歴で優秀な女性が汚部屋主婦になるケースは、決して珍しくありません。彼女たちは「自分はもっとできるはずだ」という理想と、現実の動けない自分とのギャップに激しく苦しみます。セルフネグレクトの状態になると、不衛生な環境にいても不快感を感じなくなり、食事や入浴といった基本的な生存活動さえも面倒に感じるようになります。汚部屋主婦というラベルの下には、現代女性が抱える「アイデンティティの喪失」という深刻な問題が潜んでいます。キャリアを捨てて家庭に入ったことへの後悔や、育児による自己犠牲の強要が、彼女たちの心を折ってしまうのです。Bさんの場合、部屋が荒れ果てたことでついに実家の親が介入しましたが、彼女は「自分はもう価値のない人間だ」と泣き叫んだといいます。セルフネグレクトからの脱却には、単なる掃除だけでなく、失われた自己肯定感を再構築するための長い時間が必要です。彼女が再び社会との繋がりを感じ、自分の価値を認められるようになったとき、部屋の汚れも自然と消えていきました。汚部屋は、物質的なゴミの集積であると同時に、行き場を失った彼女たちのプライドと悲しみの集積でもあるのです。空間を有効に活用できないことは、高い家賃や住宅ローンを払っていながら、その面積の大半をゴミの保管場所にしているという、極めて効率の悪い経済活動を行っていることと同義なのです。
優秀なキャリアを持つ汚部屋主婦が陥ったセルフネグレクト