呼吸器内科の診察室には、難治性の喘息に悩む患者様が数多く訪れますが、中には標準的な薬物療法を尽くしても一向に症状が改善しないケースがあります。そのような場合、私は患者様の生活環境を詳しく聞き取るようにしていますが、意外にも高い確率で「ゴミ屋敷」に近い住環境の悪化が潜んでいることが分かってきました。喘息は気道の慢性的な炎症が本態であり、炎症を悪化させる外的要因、すなわちトリガーを排除しない限り、最新の吸入ステロイド薬を使用しても効果は半減してしまいます。ゴミ屋敷という環境は、医学的に見ればアレルゲンの「高濃度培養器」です。大量に放置された紙類、衣類、食べ残しなどは、ダニやカビにとって最高の繁殖場となります。特にカビの一種であるアスペルギルスなどは、吸い込むことで気管支内で増殖し、重症の喘息(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)を引き起こすことさえあります。また、ゴミの下で繁殖した害虫の排泄物には、強力な炎症を引き起こす成分が含まれており、これが喘息のコントロールを著しく困難にします。患者様の中には、自分の部屋が汚れていることを恥じ、医師に正直に話せない方も多いのですが、環境を隠したまま治療を続けることは、火が燃え盛る家の中で水を撒き続けているようなものです。本当の治療は、部屋の片付けから始まると言っても過言ではありません。私は必要に応じて、患者様やそのご家族に対し、清掃業者や福祉サービスの利用を強く促すことがあります。環境が改善されれば、これまで効かなかった薬が劇的に効き始め、吸入薬の量を減らせることも珍しくありません。もし、あなたの周囲に喘息が治らず、部屋が物で溢れている人がいるなら、それは単なる怠慢ではなく、医療的な介入と環境改善が必要な緊急事態であると認識してください。肺は一度壊れてしまうと完全には元に戻りません。将来、酸素ボンベを手放せない生活を避けるためにも、今すぐゴミという名の毒素を生活空間から排除する決断をしてほしいと切に願っています。医師は処方箋を書くことはできますが、あなたの部屋の空気を綺麗にできるのは、あなた自身の行動か、あるいは周囲の具体的な支援だけなのです。
呼吸器内科医が語るゴミ屋敷と喘息悪化の因果関係