多くの人が汚部屋主婦に対して抱く「努力不足」という偏見は、医学的、心理学的な視点から見れば、多くの場合誤りであると言わざるを得ません。部屋を片付けられない状態が継続している背景には、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)といった発達障害、あるいは深刻なうつ病や適応障害、セルフネグレクトなどが潜んでいることが非常に多いのです。特に、片付けに必要な「実行機能」という脳の働きが低下している場合、物事を順序立てて進めることや、物の要不要を判断することが著しく困難になります。例えば、一冊の雑誌を捨てるという行為だけでも、ゴミの日を確認し、紐で縛り、集積所まで持っていくという複数の工程が必要ですが、脳の機能が低下していると、これらの工程のどこかで思考が停止し、結局「後でやろう」と放置されてしまいます。それが積み重なった結果が汚部屋なのです。主婦という立場は、家庭内のマネジメントを一手に引き受ける役割を期待されがちですが、発達障害を持つ女性にとって、この「マルチタスクの連続」は最も苦手とする分野です。周囲が「主婦ならできて当たり前」という期待を押し付けることが、本人にとっては地獄のような苦しみとなり、結果として精神を病み、さらに部屋が荒れていくという負のスパイラルに陥ります。また、エグゼクティブ・ファンクションの障害だけでなく、溜め込み症(ホーディング)という精神疾患の影響で、物がなくなることに耐えがたい苦痛を感じるケースもあります。このように、汚部屋主婦の問題は根深く、単に「片付け業者を呼ぶ」だけでは根本的な解決にはなりません。本人が自分の脳の特性や心の状態を理解し、適切な医療や福祉の支援を受けることが不可欠です。彼女たちは決してサボっているわけではなく、動かない心と体を必死に動かそうとして、それでもできない絶望の中にいるのです。社会がこの問題を個人の性格の問題ではなく、ケアが必要な状態として認識することが、解決への第一歩となります。